♪高き彼物♪
実はマキノノゾミの作品を今までみたことがなかったような気がします。評判は常々耳にしていましたが。
この作品は2000年に初演され、その後毎年のように演じられてきていたが、今回で東京公演は
一応のピリオドとするとのこと。
もっと観たかった・・・もっと早くから観ていれば、もっと何度も観られたのに。なんとも惜しいことを。自分。
04.9.11 俳優座劇場
STAFF
作 マキノノゾミ 演出 鈴木裕美 美術 川口夏江 照明 森脇清治 音響 小山田昭 衣装 宮本宣子 舞台監督 伊達一成 演出助手 久保田朱美 舞台統括 荒木眞人 企画制作 俳優座劇場 CAST
猪原正義 高野長英 猪原智子 藤本喜久子 猪原平八 森塚敏 藤井秀一 浅野雅博 野村市恵 歌川椎子 片山仁志 松嶋正芳 徳永光太郎 酒井高陽
一年ぶりの俳優座劇場。舞台は雑貨屋を営む家の居間。時は昭和50年代、季節は夏。
居間のたたずまいのリアルさにちょっと感動。部屋の隅に雑然と積み上げられている段ボール、縁側、
何もかもが、おじいちゃんおばあちゃんの家を彷彿とさせる。私の世代でさえ懐かしいと感じ、
鮮明に覚えている近い過去だから、ウソっぽい、と感じさせないための努力がすごく必要だったろう。で、雨にびしょぬれになった警官が奥の雑貨屋「猪原商店」店頭から入ってくる
(いや、店の奥が住居の居間になってるんだけど、舞台は居間なので上手の奥が店になっているのね)。
これが!遠州弁丸出し!!お国言葉らしきお国言葉を持たない私が一番なじみがあるのは
やっぱり2年間過ごした名古屋の言葉。そして三河弁をしゃべる人も身近にいたので、
遠州弁もなんだか親しみがあってとってもイイ!じゃんだらりん、だ。道っぱたにずっと座り込んで熱射病でフラフラになっていた高校生の男子を連れてきたこの警官。
ちゃんと地域の人々と顔見知りの「お巡りさん」。顔見知りというかそれ以上で、猪原商店の娘・智子に
惚れている、妻に逃げられた男やもめ。図々しいし、その家の「触れてはいけない事情」なんかも
俗っぽい好奇心いっぱいで人にしゃべっちゃったりする鬱陶しいヤツではあるけれど、明るいし、
憎めないキャラだでねぇ。遠州弁もあいまって。あぁ憎めない。想像するに、ちょっと田舎の30年前って
こんな感じで地域の繋がりが強くて、「村」っぽかったんだろう。連れてこられた男子高校生は、春休みに友人とバイク二人乗りしていた際に事故って、
友人を失ってしまった秀一くん。浅野雅博・・・こ、高校生役?いいのか?30過ぎてるでしょ?
と思ったけど、役者って不思議!大丈夫なんだもん。高校生役。妙に身体が硬い感じ。
変なTシャツとジャージ姿が、うわぁ、高校生!序盤は大人に敵意を抱くまっすぐで不機嫌な
男子高校生なのだが、事故の際に世話になったこの家のお父さん(智子の父)・猪原正義が一緒に
友人の死を悼んでくれ、熱く励ましてくれるにつれ、解放!友人が死んだのは自分のせいなのだが、
優等生の彼に嫌疑はかからず元暴走族だった友人の方が起こした事故、ということで警察に処理されていた。
友人の母親(友人は母子家庭だった)に金を渡して丸く収めた自分の父親に反発を感じている
苦しい心の内を(そして、丸く収まった友人の母親に対しても・・・)泣きながら訴える。
もう、全然浅野雅博が30過ぎのおじさんだということは気にならない。おぉぉ(もらい泣き)。
猪原正義は15年前まで高校の英語教師だったという。真摯に秀一の苦しみを受け止めるその熱さ、
ちょっと熱すぎる、、、というくらいベタな「教師」。まさに「理想の教師」像なのだ。
秀一の父からかかってきた電話に、最初は「しばらくウチにとめて、心の傷を癒してやりたい」と
穏やかに応対していたが、ついにはカッとなって怒鳴ってしまう正義。
熱い!熱い「教師」そのものなのだ。(今じゃきっと考えられないよな。生徒の父兄に怒鳴るなんて。
・・・あ、秀一は正義の「生徒」ではないけど・・・)そして、そこにお客として居合わせていた野村先生・・・これがまた!理想のお母さん教師なんだなぁ。
彼女は正義が「ある事件」で教師をやめることになった15年前には新米国語教師だった。
彼女も正義も、現在配偶者なし。彼女は明らかに正義に好意を寄せていて、半年に一度
自分の生徒が作った文集を持って猪原家を訪れる。
・・・いじらしいじゃんよ、おばさんなんだけどさ、おせっかいなところもあってちょっと鬱陶しいんだけどさ、
しかも、美人じゃないしどんくさいんだけどさ、すごく愛すべき女性じゃないかい!
正義が楽しみにしてくれているから、ということで生徒の文集を口実に、会いに来るんだわよ・・・。
切ないっ。こういう人こそが幸せになるべきだと思うわけよ!
1幕の終盤では、死んだ友人の母親のことを悪し様に言う秀一を叱り付ける野村先生に泣ける。
そこまで、秀一の「自分が悪いのだから罪は自分が負いたいのに!
ずるい大人は金なんかでごまかそうとする!」という青臭いまっすぐな気持ちに同調して観ていただけに、
野村先生の「彼のお母さんがそうしてくれたのは、あなたの将来を考えてくれたからだでね!
それは本当に、貴いことだでね!」という叱り言葉に、頭では一瞬「え?違うんじゃ・・・?」と
思ってしまったのだが、「自分もひとりの母親としての、子供たちをおもう気持ち」の迫力に、
すぐに、あぁ、そうだなぁ、と私も叱られてしまったのだ。母親にはかなわん。
そうか、それは本当に貴いことだでね・・・(涙涙涙)智子ちゃんもまた、なんというか、、、切ない感じを漂わせた女性なんだわね。明るく、しっかり者で、
あぁ優等生だったんだろうなという感じの、歳のころは30、、、。
田舎で、ちょっと前であるから、行かず後家には風当たりは今より強いと思われ。
そして、彼女が行かず後家なのには何かちょっと、例の「15年前の正義が高校教師を辞めた事件」が
陰をおとしているようないないような雰囲気がまとわりついている。
(お巡りさんがなんとなくそれを匂わせているような。彼は、無邪気に無遠慮に、15年前の事件について
触れたりする)藤本さん、オーバーなくらいベタに明るく演じているのだが、それが余計にね・・・
なんか、智子ちゃん痛々しいのよー。華奢だし。幸せになるべきよ、と思ってしまうのよ。1幕目の最後は、正義が野村先生にプロポーズして、おぉ!やったぁ、野村先生っ(涙)
そして智子ちゃんはどうやら彼氏とこそこそ電話でお話。むむむ・・・。でね、忘れちゃいけない登場人物もうひとり。それは猪原家のおじいちゃん、平八。もう最高!!!!
ステテコと腹巻き姿で飄々としたじいちゃん。ボケてんのかなぁ、と思うと、そうじゃない。
智子ちゃんが妙にコソコソしてるのも「コレだ(親指を立てて)」とお見通し。
正義と野村先生がお互いに好きあってるのもお見通し。
ストーリーにはからんでこないのだが、このじいちゃんがいない「高き彼物」世界は考えられない。
全体的には重い話なのだが、じいちゃんが作る「場」とお巡りさん・徳永のずれた感じがずいぶん
観やすくしている。ふたりとも、ストーリーの中核には関わってこないのだけれど。いなきゃ困る。2幕目は、その1週間後。受験生の秀一は本当は塾の夏季合宿に行くはずだったのだが、
父への反発と正義の薦めにより、猪原家に滞在していた。猪原家の者がみんな出払って
秀一が留守番していると、非番の徳永が訪ねてきて、いらんことを色々しゃべっていく。
憎めないなぁこいつ(智子をデートに誘おうという下心丸出しなんだもん)。
彼は、猪原の教え子だったのだ。
「ディシプリーン、ディシプリーンってな!それが、頑張れー、頑張れー、って言っとるように聞こえる」と
昔も今も変わらない「猪原先生」の口癖について語り合ったり。
昔から、熱い先生だったのだ〜猪原先生は。
秀一は素直に猪原先生に傾倒していく。猪原正義は今や教師ではないのだが、
子供を教えるのが大好きな、根っからの「先生」なのだ。何故、それなのに教師を辞めてしまったのか?
15年前の事件とは?その謎に迫るのが終盤。野村先生からの電話を受けた智子はびっくりして飛び出していく。
正義に婚約を破棄すると言われた、というのだ。正義は自分が野村先生にはつりあわない、
そして自分の身体のことは自分がよく分かっている、という。ここのところ、正義は内臓に異変を感じていた。
自分は長くない・・・。
そして、もうひとつ、彼が心にひっかけていたのはやはり15年前の事件なのだった。
その事件については、秀一の父から送られてきた速達が明らかにした。
秀一の父は教育者で進学校の教師であり、あの手この手を尽くして正義の15年前の事件を調べ上げ、
秀一に手紙を送りつけたのだった。お前が信頼するようなたいした人物ではない、と。
それを読んだ秀一はショックと怒りで混乱。
「同性愛の疑いで教師を辞めたって本当ですか?」と正義を問い詰める。うわぁぁぁ、辛い!でも、それは「嫌疑」だけで、違うんでしょう?本当のところは?濡れ衣なんでしょぅ?
と願いつつ我々観客は固唾を飲んで見守る。正義は、逃げずに秀一の問いに答える。
自分の娘も、婚約をした女性もいる前で。
答えは、「是」なのだ・・・。正義は語り出す。
愛する妻を失ってさほど経っていないころ。家庭の事情が複雑で、あまり家に帰りたくない、
家では勉強ができないという優秀な生徒・片山を宿直室に泊めてやるようになった。
他の教師と宿直当番を代わってまで(宿直なんてやりたい人はそうそういないわけだし、
好都合だったわけだ。)片山を泊め、片山も正義を信頼していた。ある蒸し暑い夜、互いに下着姿で宿直室にいた。片山は勉強をしながら眠ってしまった。
水泳で鍛えた片山の身体は伸びやかで美しかった。それを見た正義は、劣情を催した。
「そして私は彼の身体を見ながら手淫をしました。」と淡々と言う正義。
「しゅいん、て何ですか?」と訊ねる秀一に「マスターベーションです。」と、す、っと答える。はぁぁぁぁ。やりきれない。どう?どうよ、そういうことを告白された娘の気持ちは?婚約者の気持ちは?
そして、自分をそういう目で見ていたかもしれないこの先生は、と考えざるを得ない秀一の恐怖は?
周りの人間に、どういうショックを与えようとも告白してしまった正義は、自分が正直でいることに
自己満足したいだけのはた迷惑な男か?いや、でも、私はそうは思わないのね。
正義は、その瞬間、恋をしたのだ、という。これは恋なのだ、と自分に言い聞かせ、この恋の瞬間を
終わらせたくなかった、味わいたかった、と。恋だよ・・・なんて切ない!!確かに異常な状況ではあると思うけれど、恋だった、と言われて
その狂った切なさを理解できない智子や野村先生じゃなかったと、私は思う。のよ。違うかな・・・。そしてその恋はすぐに終わる。マスターベーションの最中に、片山が目を覚ましてしまった。
自分を見たときの片山の顔が忘れられない、と。・・・、結局、正義は、世間に流れた噂のように、「同性愛」だったのか?っていうと、それは
違うような気がする。ヤッてはいないし・・・いや、そういう問題じゃない・・・。ヤッていようがいまいが、
対象が男だろうが女だろうが、同僚だろうが生徒だろうが、ただ単純に、恋だっただけだ。
でも世間は、軽蔑すべき異常な、変態、みたいな意味をこめて「同性愛」と判断するんだろうなぁこういう場合。
そして、それを「違う、そんなんじゃない」と説明すること、理解してもらうことは、できない。無理だ。事実は単に、恋のときめきだったにしても、自分を許せなかったんだわね、正義は。
片山にどれだけのショックを与えたか、とか、もし片山が女生徒だったら確実に犯罪になることに、、、
なってただろう、ということを思うと(ま、女生徒だったらまずはじめっから宿直室に泊めるようなことは
しないから、あり得ないが。)。恋は、犯罪ではないけどね、あくまでも。でも、自分への制裁として、(世間体的にも続けることは
できなかったのだろう、変な噂が立てば)正義は教師を辞め、片山も転校してしまいそれ以来連絡はつかない。
自分は教師として、男として最低のことをしたと、智子たちに頭を下げる正義。この状況に、素敵な結末が訪れるのよ、涙なしには見られなかったよ、ほんと。
野村先生の説教に泣き、恋の切なさで涙腺の堤防は決壊したというのに、そのうえこの結末。智子はフィアンセを連れてくる。それは、成長してお医者さんになった片山なのだ。
片山は、「あんなによくしてもらったのに、その礼もろくに言えないまま別れてしまい今日まできてしまった」と
不義理を正義にわびる(転校したのは家の事情であり、あの"事件"とは関係がなかったのだ)。
さすが智子ちゃんじゃないかっ!片山ナイスガイ!もちろん事件が当時高校生の片山にショックを
与えなかったわけはないけど、ちゃんと正義に感謝の念を抱き続けている爽やかナイスガイ!ナイス!
そして、智子ちゃんはこのナイスガイと結婚するだけの幸福に値する女性なんだもの!
片山はとっくに正義を許しており(最初から「許せない」とかそういう考えもなかったのか?)、
智子もまた、正義がこうして告白するよりも先に15年前に起こった本当のところを知っていて
許していたってことだ。んで、内臓に痛みを感じ苦しみ出した正義を、さすが医者、正義が思っているようなたいした病気じゃ
ない、と見抜きつつかついで運ぶ片山くん、たくましいナイスガイ!
智子も野村先生も秀一も、ドタバタとみんなで病院へ、で大団円・・・
(癌で老い先短い、ってことじゃなけりゃ、野村先生との婚約を破棄する理由も消えたわけで)。
なんつーの、こう、嬉しい涙が目じりにひっかかるこの感じ。ここでストーリーとしてはおしまいなんだけど、ラストシーンは失恋決定のお巡りさん徳永が
ラジオに合わせて一曲のどを披露して失意の中帰ってゆき(笑)、じいちゃんがビールを飲みながら
ラジオのチューニングを野球中継にあわせようとする、のんびりした日常のひとコマで
余韻たっぷりに終わるのだ。あぁっ!この味!結局、「高き彼物」とは何なのか。正義も、それを求め続けて、わからずにいる。
秀一も、きっとわからずに求め続けるんだろう。そんで、実はその求め続ける心が、
高き彼物であるような気がする。
すまん、長くて。しかも物語全部説明してるし。すごいネタバレ。ハハハ。
でもしばらくは上演されないみたいだから。ね。
また生で観られるチャンスが来るときには、こんなの読んだことをアナタは忘れています。清清しい、ほんと、清らかな話でありました。
声をあげて泣くんじゃなくて、静かに泣きながら見ました。とにかく、もーあとからあとからつるつると
涙が出る出る。目はくわっと見開いて舞台を見てるので、何も止めるものがなく涙が流れ落ちまくり!
こういう舞台に時々出会えてしまうので、舞台に通うのは止められないのです。